避けられない契約だった。

ゆらり、と蝋燭の火が燭台の上で揺れる。

深夜の部屋の薄暗さとは反対に、まるで夕暮れの茜色に染まる皆の表情。
誰もが真剣な顔をして、しかし目を虚ろにしテーブルの上を見つめていた。
燭台の蝋が、徐々に根元へ垂れ落ちていく。

壁に沿って置かれる年季の入った古時計。
一刻一刻と、その秒針は休む事を知らない。

――不意にコトリと置かれたワイングラス。
円形の底をゆらり漂う赤い液体は妖しげに蝋燭の炎を反射させた。

暗い血の色を思わせるその液体を、惑い無く咽喉に通した人物。
彼(“彼”と呼ぶのが適切かどうかは定かではないが)は、手元にあった1枚の用紙に目を落とした。

静けさだけが存在するこの大広間に、彼の声だけが低く響く。

「話は纏まったようだ」

その言葉に、皆が無言で頷いた。

蝋燭の炎が、男の表情を暗闇から照らし出す。
恐ろしいほど冷たく黒々とした瞳。
深く、静けさを湛えるそれは宛ら“闇”であった。

彼は手元に置かれてあったペンを手に取ると、テーブルに座する者達が見守る中、流れるよう素早く紙上にサインを施した。

この一筆が、一つの物語の終止であり、またこれからの全ての始まりでもある――

この場の全員がそれを認識していた。

中心に座した彼はサインを終えると、既に役目を終えたと言わんばかりに早々と椅子を引いた。周囲の強張った緊張を無視するように物持ち静かなその動きには、動揺の一つ見られない。

「失礼」

そう言い残し大広間の扉の前へ立つ男。
傍へ佇んでいた従者は、ゆっくりと広間の扉を開け彼を通す。

その男は――いや、「魔」は去って行った。

ギィと軋んで閉じる扉の音は、先ほどの男の声よりも大きく、一回り不気味で…
今だ動けずにいる皆は、ただただその場に座り続けるしかなかったのだ。









CRAZY CONFLICT











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