――これはこれは、どうしたものか……

ソルディス・ジェノファリスは不可解なこの状況を、実に楽しそうに余裕を持って受け止めていた。

帰宅間もない彼は、自身の部屋へ足を踏み入れた途端平生と違う様子に即座に気が付いた。
夕刻――燭台の蝋に火も灯さぬ薄暗い部屋、ふと、脇の机に目をやる。
出かける前より幾分整理されたところを見ると、例のお姫様が勝手知ったる夫の机と整理整頓を行ったという所だろう。

その真ん中に、ぽつんと置かれた四つ折の手紙。
明らかに彼女が置いたであろうその紙切れを手に取ったソルディスは、ざっと斜めに目を通す。
字数少ないその手紙を直に読み終えた彼は、口端を歪めて笑い、懐にその紙切れを押し込んだ。

……静かに、部屋に錠を掛ける。首元のタイを緩めながら静かにベッドに近付いていった。

眼下、自身のベッドの上ですやすやと穏やかな眠りに身を委ねているのは、他でも無い――

ソルディスは目を細めた。

今朝方、下男に預ける事を忘れたガウンを緩める事無くしっかりと握り締め、それを抱き締めるようにベッドに沈み込む正妻の姿はあどけなくも微笑ましい。

昼食後、ティナが自室から出てこない。寝ているかもしれないだろうから、そっとしておいてやれと先刻ニルに言われた言葉を思い出した。てっきり今朝の揉め事に拗ねて寝込んでいるのだろうと思っていたが、こんな所で暢気に昼寝をしていたとは――

言ってみれば、据え膳。
面倒な仕事を手早く終えて帰城したソルディスに対する、まるで報酬の如く舞い込んだ状況に、ソルディスはまた薄く笑った。








「――ん……」

身動ぎをする。
鼻を擽るソルディスの香水が心地良い。腕を擽る生地の感触も、体を受け止めるベッドの柔らかさも、何もかもが気持ちよかった。
ここ、どこだっけ…と、目を閉じたまま思うが、どうせ自分の部屋だろうと思い、また意識を眠気に預けようと体の力を抜く。まだ眠たい瞼を開けることも出来ず、寝たまま、ティナはゆっくりと背伸びをした。

――不意に、彼女は、両腕を拘束される様な不自由な感覚を感じ取る。
手首を何かで締め付けられるような、痛みは伴わないが緩くもない力……

何度か両方の手首を解放しようと、寝惚けたままの弱い力であれこれやってみるが、不自由な感覚は消えてくれる筈も無かった。
ようやくここで、ティナはうっすらと思い瞼を抉じ開ける。


薄暗い部屋。目にぼんやりと映るのは、見慣れた天蓋。
褪せたワインレッドのそれに金糸の様な織込みがなされた威厳ある生地。
それは、確かに見慣れたものではあるが自身の部屋にあるものでは無い。

(……ソルディスの、部屋……?)

思った、その時。

「……ん……っ」

朦朧とした意識で確認しつつある現状にティナが混乱していると、突然首筋を伝う温かい感触に体が仰け反った。見計らったように、背に回される腕に、彼女の体は完全に自由を失う。

足を割って入り込み、圧し掛かる体に、まだ覚醒しきれていないティナは混乱するばかりであった。

「……、…な、に………」
「――お目覚めか?」

耳元を擽る低い声に、寝惚けるティナは心地良さすら感じた。
抱かれる腕の抱擁感に安堵を感じて再び目を瞑ろうとするが、耳をゆっくりとなぞる舌に無理矢理意識を引き起こされる。

「……っ…ぁ…」

ティナは思わず彼を退かそうと腕を動かすが、両手が不自由な為何も出来なかった。
徐々に意識を呼び起こし、ティナは、慣れない薄暗さの中自身の両腕を確認する――

「――…え…?、………なに、これ…?」

細く白い両手首を縛り付けるのは、限りなく黒に近い紺の布。
それが、ソルディスが仕事の際に身に着けるタイだと気付くまでに然程時間は掛からなかった。
何とか解こうと手首を動かすが、ぎりっと布が肌を擦るだけで解ける様子は一向に無い。

「無駄だ……解けない様に結んである」
「……っ…ソルディス……?」
「あれだけの文面で謝罪を済ませたつもりか?――甘いな」

そう言うと、ゆっくりと、味わうようにティナの耳元から首筋にかけて舌を這わせた。
ねっとりと暖かな舌の感触に擽ったさと気持ち良さを同時与えられ、ティナは甘い吐息を吐きながら体を捩る。
普段より強く、丁寧に味わうような愛撫。寝起きで力の入らない体は、彼の仕草を一つ一つ快感に変えていくのに手間を取らなかった。

帰宅後、服も着替えておらず髪も下ろしていないソルディスにこういう行為をされるのはティナにとって初めての事である。思っても居なかった状況に、ティナは戸惑いを隠せない。
両手を縛られ抵抗もままならないティナの不自由を良い事に、ソルディスは彼女の羞恥を掻きたてるよう服の上からゆっくりと体を撫ぜた。

「……っ、ぁ、…ん、やぁ…」

寝惚けたままの甘い声。

「何だ、いつもより敏感だな」
「…っ…お願、い、……手…」
「――外さない。今朝方の暴言を、忘れた訳じゃないだろう?」

ようやく意識を明瞭にし始めたティナは、ソルディスの下で抵抗を始める。

「…、ソルディス、…ぁ…っ…!」

胸の膨らみを大きな手に触れられ先端を指で刺激されると、ティナは自身の手で振り払うことも出来ずにただ声をあげる事しか出来ない。柔らかい生地のドレス越しに伝わる感触は直接触れられるよりも刺激が弱く、もどかしい快感がティナの体を支配する。

「ご、ごめ……んなさ、い…、…」
「始めから、自分の口でそう言えば良かったんだ」

赦されたような台詞に、ティナは一瞬力を抜く。

「――書簡で謝罪をするとは墓穴を掘ったな。自分で書いた言葉を忘れたか?ちゃんとその寝惚けた目で確認してみろ」

ソルディスは体を起こすと、懐から手紙を取り出しティナの眼前に突きつけた。
暗く灯もない中、ティナは目を必死に凝らして自分が彼に宛てた文章を読み取る。

「…えっと…、?…“今日はごめんなさい。ソルディスがお仕事に行ってから、自室でずっと反省してました。本当にひどいことをしたと思ってます。ソルディスが帰ってきたら、ちゃんと言う事を聞いて、良い子にします。だから、ソルディスが良ければ、許してくれるとうれしいです。――妻 ティナ・ジェノファリスより”」

呟き終えても、ティナは良く意味が分からず目をぱちくりさせる。

「――と言う事だ」
「え?何が?」
「読み返しても分からないとは相当だな。自分でちゃんと書いてるだろう」
「だから、あの、……何を…?」

ソルディスは質問に答えず、裾長いドレスをティナの太腿まで捲し上げた。
突然外気に晒された白い足は粟立ち、ティナは驚いてどうにか体を捩らせる。が、間にソルディスが割入っている為どうにもならない。非難の声をあげようとしたティナだったが、すぐにソルディスの唇で抗議を封じられてしまう。

「…ん…、…ふ…っ」

可愛らしく咽喉で喘ぐティナの姿に、満足そうに目を細める。
深く貪る事はせず唇を重ねるだけに留め、丁寧にじっくりと彼女の唇を啄ばみ味わう。桜色の柔らかい唇は、ソルディスの口付けをたどたどしくも温かく受け止め、怯えた動きは加虐を掻き立てる。

片手で束ねられたティナの両手首を押さえつけるソルディスは、空いた手をティナの足に這わせる。膝の裏に手を廻して脚を開かせると、ティナは怯えたように体を暴れさせた。

「暴れるな……満月でもないのに、手荒な事はしたくない」

唇を啄ばみながら囁く。

「や…っ…こんなの、」
「“ちゃんと言う事を聞いて、良い子にする”んだろう?だったら、しっかり言う事を聞いてもらおうか」

嘲る言葉に、ティナはようやく自身で引き起こした災難に気が付いた。

「ち、違うの!こんなこと、してって思ったわけじゃなくて、」
「今俺の言う事を聞かなくていつ聞くつもりだ」

これ程まで、ティナがソルディスに従順になるべき折は無いというのに――

ソルディスはティナの腿に手を滑らせ、ショーツの際をなぞる。

「…ダメ、っ……お願い、…んっ…!」

指で布越しに触れられるそこは、お世辞にも嫌がっているとは言えない様子だった。
抵抗して拒絶する言葉とは裏腹で少しの愛撫だけでこんなにも反応する体に、ソルディスは皮肉に笑う。

「お前は自分の言葉にも責任が持てないのか……困った奴だ」
「ん、…だって、ソルディス、が…」
「俺が?」
「――あ…っ!」

間接的に蕾を刺激され、ティナは背を仰け反らせた。
喘ぎ出した声を恥じて顔を紅に染めて顔を逸らすが、その仕草すらもソルディスを加虐に追いやる。
暴れるティナを余所目にショーツを取り去ると、可愛らしく蜜に濡れるそこには触れず、焦らす様に膝から腿にかけて丁寧に啄ばみ出す。

薄暗いとは言え、まだ夕刻の明りが差し込み相手の姿が確認出来る程の部屋の中。
自分の露になった部分をソルディスの眼下に晒され、ティナは死ぬ程の羞恥に襲われた。
しかし体は彼女の気持ちに関係なく熱を帯び、知らずのうちに瞳は生理的な涙で滲んでいる。
こんな状態でやめろといわれても、説得力も何も無い。

ベビーピンクの可愛らしいドレスを脱がしもせず、胸元の留め具を外してやることもしないまま、ソルディスは唇を進めた。白く、柔らかい肌。唇を当てれば、しっとりとそれを優しく受け止め、紅く花を散らせば愛しいほど永く痕跡を留める。愛撫を恥じ、羞恥に首を振る頑なな貞操を示しながらもソルディスを楽しませる要素を持つその体に、労いだと言わんばかりにソルディスは執拗な口付けを落とす。
手を掛けてティナの足を開かせると、ソルディスは身を屈めた。徐々に中心に近付く唇に、ティナは快感と混乱を同時に覚える。

「……あ、…ん、…ソル、…?――あぁっ…ん、やぁ!」

制止の言葉も言葉にならず。
まだ慣らされ切れずに固く閉ざされた割れ目を、つぅ、と舌でなぞられると、ティナは泣き出しそうな喘ぎを零しながら腰をくゆらせる。秘部を柔らかい舌で弄ばれる快感と、限りない羞恥に、ティナは例えようのない感覚に襲われる。

「嫌なのか?…嫌じゃないだろう、こんなに溢れさせて…」
「……ひゃっ……ん、…いやぁ…っ!、…あん、ダメ、ェ……そこ…、や、…汚、い…っ――っあ…!」

声を抑制することも出来ず、首を振って懇願するばかり。ティナは自分のされてる事を理解できずに――いや、理解する事を拒むように目を頑なに瞑る。視覚を失った五感は敏感になるばかりであるというのに、ティナはそれが分からず顔を逸らし続けた。割れ目の奥に浅く、また、深く侵入されながら、蕾をも刺激され、冷静な思考を保つことが出来ない。

「…んっ、ぁ…!…もう、…や…っ…いやぁっ、!ダメ、…っ、そんなトコ、舐めちゃ、や…っ!…ぁ、……!お願、い、ソル…っ――!…っ!もう、…っ…――あぁ……っ!」

一際高く声をあげると、ティナは体を震わせて快感に支配される。
それ程酷な責めをしたわけでも無いのに敏感に達してしまったティナを見、ソルディスは笑った。

「何だ、仕方のない奴だな。謝罪と言いながら、自分だけ気持ちよくなって……悪い子だ」

まだ快楽に頭が朦朧とし荒く息を切らす彼女を見下ろしながら、ソルディスはその火照った頬を撫ぜた。
秘部を指先でなぞると、すぐにでも再び達してしまうかのように痙攣し震えているのが分かる。
時折噛締めた所為で赤くなっているティナの唇を奪い、深く貪った。割れ目を弄ぶ指先に反応し、一々咽喉で喘ぐ姿が可愛らしい。
目を細め、ソルディスは自身を取り出すと、まだ休まらないそこを無理に押し割る様に熱を埋めていった。

「――ぁ…?……や、…ソル、…っ、まだ…、ん、あんっ!」

何度か体に訓え込まれたとは言え、ソルディスに体を貫かれるのはまだ慣れていない。彼女の経験の浅さだけでなく、ソルディス自身の大きさの所為もあるのだが、彼しか経験した事のない彼女がそれに気付くのは不可能に近い。加えて恐怖心により体を緊張させてしまう為、ティナが彼を受け入れるのは然程容易な事ではなかった。

そんな事を気にしない……というより、寧ろそんな閉ざされた彼女の様子すら楽しむように、ソルディスは割と強引に体を推し進める。それでも、ティナの様子を見ながら、無理はさせ過ぎないように――ティナにとっては、全ての行為が無理矢理に思えるのだが――、加減をしながら体を弄んでやるのが彼の一応の配慮である。これが時期も時期、雲一つ無い満月の夜ならばそうもいかないだろう。月が満ちかけ良く照る夜は彼女を近付けない様にしているのだが、いつ何の過ちで彼女を本能のままに貪ってしまうか分からない。

ただ貫くだけの快楽なら、これまでに飽きる程楽しんで来た。
ソルディスが今楽しんでいるのは、彼女を――ティナという一人の少女の体を開き、自分の所有物の如く快楽を訓え込む悦びである。

「ちゃんと咥え込めよ……」
「……っあ、ん、!…ふ…ぁ」
「そんなに力を入れたら、俺が奥まで入り込めないだろう?もっと力を抜け…………そう、良い子だ」

あやすように言いながら、ソルディスは一際奥までティナを貫いた。
痛みは無くとも、体を内側から押し広げられるような圧迫感。伴う恐怖心、そして羞恥。
ティナは目の端から涙をつぅっと流し、許しを請うような視線を送る。

それは、男を誘う為に行われるような所作であるのにも関わらず、残念ながら経験浅いティナは相変わらずそれに気が付かない。
ソルディスは薄暗さに光り零れるその真珠に促されるよう、皮肉に口端を歪めながらティナの中で動き出した。

「…!…っ、ふ、…ぁ、…っ!ソル、ディス…っ…」

自分を抱く者の名を呼ぶ甘い声。ティナ、と名を呼ぶ度に、敏感に彼を締め上げる内壁。
互いが互いの奥にある何かを刺激するように――体を交える。

「お前……、…凄いな、今日は…――強ち、縛られるのが好きな性質か?……物好きだな」
「ん、…あん、っ、…違…っ…ぁ、!…」
「違わない……ティナ、…嘘は、もっと上手に吐け」

叱るように、ティナの弱い箇所をじっくりと責めあげると、ティナは声に成らないくらいの叫びをあげた。
繋がる部分からは、ティナの耳にも届く程の厭らしい水音が響いている。
自我を無くしてしまいそうな快楽の中で、不意に、ティナは快楽に顔を歪めながらもソルディスに縋った。

「……ソル、…ディス…っ…ぁ、…いつも、の…っ」

ティナが息を絶えながら懇願するのは、彼が平生彼女を抱く際に使用する避妊具の事である。
彼に体を弄ばれ魔族へと引き擦り込まれたあの一晩以降、彼は、ティナを抱くたびにそれなりの処置はするのが習慣となっていた。始めは何を意味する行為か分からなかったティナであったが、親しくなったガーネットとの昼の猥談で、少なくとも今の自分にとっては必要な物だと、身に染みて感じていた。

「……お、ねが、い…っ…ちゃんと、」
「ああ、あれか?悪いが、今切らしてる」
「……――切、…っ…?…ん、やぁ…っあ!」

咎めようとするティナを制止するよう、ソルディスは先刻より勢い良く壁を刺激した。

「質が良いのは手に入り難いんだ。そう文句を言うな……まぁ、どうにかしてやるさ」
「…っ……ひど、い…っ…――あ、…っ…あん、っ」
「あまり締め付けると、どうにもならなくなるぞ……?」

意地悪くそう良いながら、ワザとティナの性感を高めるかの様に胸を刺激してやる。
ビクリと体を震わせながら顔を逸らすティナの姿は、彼を満足させるに十分な痴態だった。

子を身篭る、と言う、いつかは経験する事でありながら今は未だその覚悟が出来てないいティナは、快感と恐怖心に板挟みになりながら必死に与えられる衝撃に耐えた。瞳からは涙を流し、秘部は嗚咽をあげるその姿に、ソルディスは楽しそうに咽喉で笑いながら動きを弱めてやろうとはしない。

ティナの中は、きつく、奥の方にある襞は無意識に男を喜ばせる。
彼女が弱い入り口をちゃんと刺激してやりつつ奥を突き上げると、ティナは最早抵抗の余裕すら見せなくなった。痛みより、苦痛より、人が我慢できないのは強烈な快楽である。ティナの理性は、ソルディスに掻き消されつつあった。

「子を、宿すのは……嫌か」

動きを止めずに投げかけられた言葉。快感に混乱しつつもティナは、違うと首を振る。
そして、続けるように、消え入りそうな声で――怖いの、とだけ言った。
きっとそれは本心なのだろう。子を孕む事は厭わない。が、いざそうなる時が来ると怖いという心理は、男である身でも想像に難くない。

ソルディスは身を繋げたままティナの唇を一度貪ると、啄ばみながら笑った。

「――からかいが過ぎたな」

そう言うと、枕元から、彼が平生使用している避妊具を手に取った。
ティナは騙されていたことに気付くと、恥ずかしそうに顔を逸らして、また一筋安堵の涙を流す。
一度自身を抜き、ソルディスは、口でそれの封を破きながら、

「こんな面倒な事をするのは、お前が初めてだ……感謝するんだな」

呟かれた言葉を、ティナが理解するまもなく――
処置が施されたそれを再び蜜に濡れるティナの中に押し込めると、彼女は首を仰け反らせて喘いだ。

もう、お気に入りのドレスが皺になる事など頭の隅にも残っていない。
自分がはしたなく溢れさせた愛液でドレスが汚れて、後にメイドがそれを洗うことになる事などと、そこまで思慮を巡らす余裕も無い。

布が食い込む両手首の痛みすら快感に感じる、狂気と狂喜の境目。
――可愛らしく高い喘ぎを漏らしながら、ティナは、全身をソルディスに委ね快楽に飲み込まれていった。

























目が醒めたのは、ソルディスのベッドの上。
果てた後すぐに寝入ってしまったのだろう、外は完全に日が落ち、室内は蝋燭の灯に照らされている。
高級な生地のシーツが肌に心地良いと思えば、いつの間にかドレスは脱がされていた。腕を縛っていた布は外され、最早痕すら残っていない。
ソルディスは、と言えば、昼間ティナが抱きしめて寝ていたガウンに着替えて、彼女を抱きしめて寝入っていた。髪を下ろしていない所を見ると、湯浴みをしたり夕食を一人取る事もせず、そのまま眠りについたのだろう。

ティナは、自分だけ何も身に纏っていない事を恥ずかしく思いながら、ソルディスのガウンに縋って顔を埋めた。鼻を擽る微かな整髪剤の匂いに、ティナはホッと溜息を付く。
自分を包み込む存在に安堵を感じるティナだったが、やはり素肌を直に抱きしめられる感覚は気恥ずかしくて落ち着かない。

もぞりもぞりと腕の中で体を捩るティナに、ソルディスは目を覚ました。

「……どうした……」
「あ、ソルディス…」
「晩餐が取りたくなったか」
「ち、違くて…っ…あの、…ネグリジェ…」
「寝巻き?…今更言うことか、お前は…」

ティナの額にキスをしながら、ソルディスは彼女の背を撫でた。

「ん、ちょ…っ…、――、ダメ…」
「もう少し体力をつけろ、一回くらいで気をやるな。お前は体力が無さ過ぎる」
「……っ…」

ティナは顔を背けると、拗ねたように言った。

「それって、……誰と比べてるの?」
「……」
「……酷い」

と、つい口を滑って出てしまった言葉に、ティナはハッと口を噤んだ。
ダメだ、と思いながらそっと視線をあげると……同時にソルディスの唇に口を塞がれてしまう。
思わずティナは、ソルディスのガウンを握り締める。

「もう一度、縛られたいか……?」

ティナの唇を解放すると、ガウンを握る腕をそっと取り、手首を啄ばんで囁いた。

「お前は馬鹿だ。いつも考えなくて良い事まで考える」
「………」
「考え込んで、一人で落ち込んだりする」
「……う…っ…」
「結果、徹底的に落ち込んで自滅する。違うか?」
「…………うぅっ…」

手首を擽っていた唇を離し、ソルディスはもう一度ティナの額に口付けをした。

「分かったらもう寝ろ。あまり喋っていると、もう一度抱くぞ」
「……っ……お、おやすみなさい…!」

ティナはそう言うと、シーツを被ってソルディスの胸に顔を埋めた。
単純で分かりやすい彼女の行動に呆れながら、まぁ、こんな馬鹿な女も珍しいとソルディスは目を瞑る。
情事の後の気だるさに空腹感も麻痺し、仕事終わりの疲れも感じながら、彼は眠気に身を預け始めた。




――が、結局。
四分後に空腹を訴える正妻の言葉によって、彼はまたもや睡眠を阻害される事になってしまう事となる。


彼が本当に安眠を得ることが出来るのは、もう少し後の話。









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