先日ニルによって広められた、好意ある男性へ甘味を送るという異国の風習には、実は続きがある事が判明した。
別に判明した所で、浮ついた世俗の風習など全くもって下らないと蔑んだ態度の領主様がそれに従う事など万に一つも有り得ない(嗚呼、正確に言えば、有り得なかったと言うべきだろうか!)
天変地異だ、そう彼の姉は頭を抱えて叫びつつも極めて嬉しそうにはしゃぎ回った。
煩い、黙れ、平生なら死刑宣告に等しい言葉を淡々と述べる彼の手には、普段の出張土産にしては小さく綺麗な白い箱が握られている。箱の側面をちょっと見ればそれは城下で極めて有名な菓子屋のものだと分かる薄茶の印。
あんたも血が通った生き物なのねと泣き出しそうな姉を差し置き、領主様は今頃彼の帰りを待ちわび部屋で絵本でも読んで暇する姫君の元へ向かっていった。胸躍る展開に落ち着かないニルは、他人の秘め事に頬を染める乙女の様、そっと瞼を閉じながら、黒と銀で彩られた弟の部屋の扉に静かに耳を近づける。

「お帰りなさい!――あ、お土産買って来てくれたのね」
「…いや」
「違うの?お土産じゃないの……?」
「…いや」
「ああ、もしかして、自分が食べようと思って」
「違う、そうじゃない」

どうにか説明しようとするが、まさかこの間のチョコレートのお礼だ等と口が裂けても言いたくない(と予想される)領主様は、ティナの言葉を悉く否定しながらじゃあコレが何を意味する贈り物なのかをはっきり彼女に告げようとしない。
苛々させる弟だこと、彼女は舌打ちしながらも憤りを何とか押さえ、彼等の様子をじっと伺う。
ニル・ジェノファリス。御歳1000歳越えをしている彼女は、思いがけず城に舞い込む青春真っ盛りなシチュエーションに今日も美味しさを感じている。






→NEXT



Copy Right (C) 2004- @KIERKEGAARD−IZUMO.  All Right Reserved.