「良い?男って言うのは、思う以上に女心に疎いものなの。その人が例え自分を愛していようがいまいが、関係無くね。だから、男に過度の期待をしちゃ駄目よ。ほんの少し、たった百分の一でも伝われば良い方なの。それを知っているのと知らないのでは偉い違いよ」 「そんなものなの」 義姉の言葉を一つ一つ頷いて聞く少女はめっきり恋愛初心者だ。お茶を飲む手の動きもすっかり止めて、何時の間にか彼女の話に聞き入っている。男心って一体何なの、そんな事から始まった気がするこの男性談義は既に二時間に渡っている。遠い異国に、年に一度大切な男性に甘味を送る習慣がある――ニルは遠い記憶を探り、そんな知識を姫君に入れ知恵している。これは、姫と愚弟の距離を縮めるいい機会だ。そう思ったニルの口調はどこかいつもより力がこもる。 「ティナ、どうせ行くなら思いっきり行きなさい。失敗なんて恐れちゃ駄目。ちゃんと気持ちを伝えたい男性が居るなら、それこそ偽り無い気持ちを率直にぶつけていくのが一番良いのよ」 「分かったわ。私、頑張る。私、大切な男の人にちゃんと直接気持ちを伝える事にするわ」 数日後、何を思ったかティナ・ジェノファリス領主婦人が突如祖国に馬車を走らせて帰郷をしてしまった。 意味も分からず、しかし慌てて遥々彼女を迎えに行った領主様が聞いたところによれば、ただ彼女は大切な男性に直接気持ちを伝えに行っただけなのだと。 ……あの子の中で優先順位は、まだカステル・ジニアが上だったのね。 半端に失敗した彼女の男性談義は、姫君と領主を近づけるどころか更に距離を伸ばす結果にしかならなかった。 |