しとしとしと しとしとしと


小雨、とティナが窓に掌をつけながらぼんやり呟いた。

ねぇ、ちょっと、踊ってみたい。

どうぞどうぞお姫様。
脳が足りない貴方の為に、この私目はベッドの上に座ったまま、侮蔑の視線を絶え間なくお送りしよう。


たん、たった た、とと、たん

雨が当たる不規則なリズムと、彼女が踏み込む絨毯の下の軋んだ音。
ベッドの上に男が起き上がった時の布の音と、姫君が、咽喉で笑った可愛い声。

裸足のままなんてみっともない?
いいや。そのまま続けて良い。

ペチコートなんて、いやらしい。
痴態は、曇った空のメランコリー。(そして、彼女は娼婦の様だ、)

さて、それは一体全体踊りなのか、それともお前が作った呪術の類か、

――馬鹿、

拗ねたように足を止める。
いいから続けろと言ってみたけれど男の言葉に少女は何も返さない。

また踊り出せば、貴方は満足するかも知れないけれど、黙り続ければ、きっと、その強引な腕で私の体を引っ張って、昨日の夜の行いの様に、また、私の体で、色々退屈凌ぎをする気なの。
かもな。
否定、しないんだ。
したら踊るか?
……踊らない。



(ねぇ、ソルディス。私は貴方に恋慕を告げて、貴方は城に帰ってきた。
私は夜毎貴方に抱かれて、はしたなく声をあげて、泣いて、最後に、口付けをする、その行為は何て健気じゃないかしら。だって、ソル、ソルは私に何も言っていないのにね。愛してるとも、恋しいとも、一生大事にしてやるなんて、一欠けらだって言わないのにね。ふしぎよね。それでも、一つも傷つかないの。何度意地悪な事をされても、私、貴方に、最低な扱いを受けているなんて、今はちっとも思わないの。これって、ああ、こんな変な天気だから思うのかしら。(ねぇ、踊ろう?))



体じゃなくて心を抱いて、何て安っぽい台詞は以前にも言われた気がする。この女ではなく、娼婦に。それも、嗚呼、くもった日に。醒めて、止めて、返した。気がする。半端な体は、一体誰が慰めたのか、何て余計なようで肝心な所は覚えていない。



(さてさて姫君、気付いているだろうか。こんな滅入りそうな曇り空の中、お前がまだ朝食を取っていないという事実に、お前が一晩善がった所為でシーツが酷く乱れてしまっているという嗤える事態に、実の所、そのまま踊り続けようがそれを拒否してみようが日が暮れるまでの永い永い退屈な時間を、再び組み敷くことで潰そうとしているその思惑に)



「ねぇ、ソルディス。一緒に踊って」


寝床の上でなら考えてやる。





( くもり 空 )




Copy Right (C) 2004- @KIERKEGAARD−IZUMO.  All Right Reserved.